Anime

数分間のエールを @109シネマズ大阪エキスポシティ

劇場で予告編を目にして気になったので、観てきました。

数分間のエールを

創作をテーマにしたオリジナルアニメーションです。

「数分間のエールを」は、何者かになりたい、自分が作ったもので誰かの心を動かしたい、そんな願いを持ってミュージックビデオの制作に没頭する高校生の朝屋彼方(あさやかなた)と、自分の歌が誰にも届かなかったミュージシャンで今は新人教師の織重夕(おりえゆう)。対称的な二人の人生が交錯する一瞬を描いた物語です。脇を固める主人公のクラスメイトの二人も絵画にバンド活動とそれぞれ創作活動に取り組んでいて、悩んだりぶつかったりする青春群像劇が繰り広げられます。

この作品で心に残ったのは、主人公の彼方があくまで前向きなところです。その前向きさは、本人の性格だけではなく、まだ創作活動の辛さを知らないから、という点も印象深い描写でした。もう一人の主人公である織重先生は、創作の道を諦めて別の道に歩き始めていて、二人のすれ違いや対立が物語の主なテーマになっています。

モノづくりをする人間としては、彼方のように自分の作品に対する自信は大切なものなのですが、ものづくりを諦めつつある織重先生からすると、その自信は眩しすぎるわけです。織重先生もかつては自分の作品に対する自信を持っていたのですが、いつしか自信をなくしてしまった。彼方を見ると、それを嫌でも自覚することになってしまって、前向きさがかえって辛く感じてしまう、そんな対立が物語に緊張を生んでいます。

その緊張を解消する重要な役割が、脇を固めるクラスメイトの二人に与えられています。一人は彼方の中学時代からの友人である外崎大輔(通称はトノ)。彼はいろいろあって、今は織重先生の気持ちが理解できる状況で、彼方に織重先生の気持ちを伝える役回りを担います。彼方とトノは、実はお互いに相手を羨ましいと感じていて、しかもそれをお互いに理解していないというすれ違い状態です。織重先生の件とお互いの件、二つのすれ違いが絡み合いながら解消され、緊張からの解放が感じられるのは、脚本の妙というやつでしょうか。爽快でした。

もう一人のクラスメイトは、中川萠美。軽音楽部でバンドを組むベーシストで、学園祭のプロモーションとして彼方にMV制作を依頼しています。とある事情から、いわゆる「解釈違い」に悩む彼方の背中を押すシーンが印象的でした。このシーンは、タイトルの「数分間のエールを」に込められた意味を回収するシーンでもあり、意外な重要人物と言えるでしょう。パズルのピースがハマるような爽快感が感じられる名シーンだったと思います。

そんな心に残るシーンを描いた脚本は、絶賛放映中の「ガールズバンドクライ」でも脚本を手がける花田十輝氏です。どちらも創作活動をモチーフにしていますが、「ガールズバンドクライ」は「自分のやりたいことをやって売れるのは難しい」であり、そもそも届かないことをテーマにした本作品はもう少し前段の悩みごとにも見えます。いずれも創作活動へ真摯に向き合う姿が描かれていて、心を抉られるような気がしました。

お話以外では、Blenderを使ったCGアニメーションならではの細やかな織重先生のギター演奏や、彼方のMV制作シーンがヌルヌル動くのがとても印象的ですし、舞台になった金沢や羽咋市の名所もリアリティがあってよかったです。自転車で千里浜なぎさドライブウェイまで走るのは、ちょっと大変だと思いますけどね。

創作をテーマにしてその光と影を描いた、心に残る作品でした。自分自身でも、何か創作と呼べる活動をやってみたくなる刺激に満ちていますね。音楽か映像か、何か始めてみようかなぁ。

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