Anime

ルックバック [LIVE ZOUND] @チネチッタ

描き続ける、何のために?

ルックバック

「チェンソーマン」「ファイアパンチ」などを手がける藤本タツキ先生の読切を原作にした劇場版です。上映している劇場が少なくて、どの劇場で観ようか悩んでいたところ、チネチッタで上映していることに気づいてチネチッタに足を運びました。チネチッタはガールズバンドクライでも登場していて、いつか行ってみたいと思っていたので、よい機会でした。

ルックバックは、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野と、不登校でずっと絵を描いていた京本、二人の少女が漫画を描く物語です。同じ漫画を描く者同士、影響を与えあいながら物語が進み、意外な結末を迎えます。上映時間は1時間程度で、テンポよく物語が展開してぎゅっと圧縮された濃密な体験が得られます。原作を取捨選択してうまく映像作品に落とし込み、すっと頭に入ってくる展開に再構成されていたのは、さすがといったところ。公式サイトにある押山監督のコメント「原作を快く貸してくれた」のとおり、原作への敬意を持ちつつ結果を出していると思います。

漫画とは一味違う印象深かったところは、藤野の喜びが表現されたシーンです。藤野が、その画力を認めて驚愕し自分との差に打ちひしがれた、藤野にとって無視できない存在の京本が、「ずっとファンだった」と自分を認めていたことを喜ぶシーンです。京本の前ではすまし顔だった藤野が、一人で帰る道すがら徐々に喜びを表していく変化が丁寧に描写されていました。原作でも3コマ+見開きで力一杯表現されていましたが、シームレスに変化を表現するなら映像の方が伝わりやすいと思います。

随所に漫画を描くことへのひたむきな思いが散りばめられているのもよかったです。藤野が背中を向けてひたすら描き続ける様子、その中でもちらりと鏡に写る真剣な表情、描いてきた蓄積を表現するスケッチブックの数々など。そうやってひたむきな思いを表現したからこそ、描くことを諦めた藤野の描写が対比によって説得力があり印象的でした。

喜びのシーンで無音が効果的に使われていた点も心に残りました。藤野と京本が二人で喜ぶシーンは、ガラス越しの描写になっていて喜びの声は聞こえないんですよね。想像の余地があって喜びの大きさが感じられました。劇場では反響に配慮されていて、無音が本当に無音に聞こえるので、劇場で鑑賞できてよかったです。

チネチッタではLIVE ZOUNDでも上映していたので、せっかくの機会だからとLIVE ZOUNDにも挑戦してみました。ライブ向けの音響セッティングということでセリフがポワつくという評判も聞いていましたが、さほど気にならずセリフは聞き取りやすかったです。音楽シーン、特にライブシーンがある作品は楽しめそうなので、機会を作って再挑戦してみます。

漫画を描くことに真正面から向き合った作品でした。漫画を描かない私にとっては、ルックバックのような作品を通じて想像力の幅を広げて擬似体験ができました。最近は、ガールズバンドクライ、夜のクラゲは泳げない、数分間のエールを、など、創造やものづくりをテーマにした作品を立て続けに体験して、自分でも何かやってみるか、と思えてきたところ。いろいろな体験を糧にして、いろいろと挑戦していきたいと思います。

ルックバック (ジャンプコミックスDIGITAL)

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藤本タツキ
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